七隻と十九隻
冷域九の退避指揮を執る津久井怜は、格納庫に並ぶ二十六隻の艇を見回した。七隻は自力で遠くまで飛べる。十九隻は作業用だ。その数字を変える方法はないが、載せられる人数なら工夫できる。
「作業艇を連結して曳くのは危険です」
機関士が言う。津久井は異論を否定しなかった。曳航できる距離と加速の限界を、先に試すよう命じた。いきなり人を乗せるわけにはいかない。
試験は失敗した。索が途中で滑り、作業艇が回転した。格納庫の床へ戻るまで、見守っていた者は一言も発しなかった。
「やめますか」
副官が訊いた。津久井は首を振る。
「方法を変える。危険なことを繰り返すのとは違う」
作業艇の一部を無人の荷物運搬に使い、食料と空気瓶を先に送る案を試した。人を乗せる七隻は、何度か往復できれば多くを運べる。ただし帰り道の安全が確認されなければ、二度目はない。
副官は抗議する家族を別室へ案内し、退避艇の設備について説明した。不満を口にできる場所が残ることも大切だった。
曳航試験に失敗した機関士は、責められると思って津久井の前へ来た。津久井は再試験の条件を尋ね、無理に結果を改めようとしないことを確認した。危険を発見した人を罰すれば、次から誰も報告しなくなる。彼は試験班の記録を共有し、後方港にも注意を送った。遠い場所で同じ方法を試す者がいれば、失敗を一度で済ませられるかもしれなかった。
津久井は家族のいる者を優先する名簿を作らず、医療と生命維持の必要度で最初の便を決めた。抗議の声も出た。彼は決定の理由を一人ずつ説明した。避難が始まっても、まだ残る人々の指揮を執る者が必要だった。




