三度鳴った退避灯
霧生四の監視所で、秋元莉央は退避警報を三度目まで鳴らさなかった。赤色未同定群を示す反応は、まだ遠い。だが冷域九という小さな採掘拠点から、同じ警戒信号が繰り返し届いていた。
「現地が攻撃を受けているのでは」
部下は言った。莉央は通信の時間差を照合する。三通とも内容が同じで、発信時刻が微妙に違う。機械の再送かもしれない。生存者が何度も送っているのかもしれない。
莉央は警報を一段だけ上げ、冷域九への航行を止めるよう各船へ告げた。採掘拠点からの退避船が来る可能性もあるため、霧生四の受入れ台を準備させる。
一時間後、短い音声が届いた。『自力出港を試みる』。誰の声なのか分からない。けれど少なくとも信号の一つは、人間の手で送られたものだった。
莉央は受信内容を繰り返し聞き、不要な雑音を除いて保存した。冷域九の方角には、赤い反応が薄い帯のように広がっている。船が抜けられるかどうかは判断できない。
当直表には、赤い反応が消えても監視を続けることを明記した。後任の職員が警戒解除と取り違えないためだった。
冷域九の識別符号は古い規格のままで、霧生四の自動受信機には警報として登録されていなかった。莉央は手動で優先順位を上げ、後任にも理由を伝えた。新しい設備だけを信じれば、古い港からの叫びを聞き逃す。いま人が住んでいる場所の一覧と、機械が警報を出す場所の一覧は同じではなかった。夜勤に交代するとき、彼女は符号の一覧を印刷して机へ置いた。
監視所の職員たちは避難船の見張りを交代で続けた。霧生四へ来ると決まったわけではない船のために、空いた係留口を一つ確保する。その小さな余白だけが、いま遠い人々へ用意できる場所だった。




