返事を届ける航路
灯標七の倉科澪へ、瑞帆六から技術資料が届いた。冷却板の耐久試験と、代替加工の手順が添付されている。軍の報告書よりずっと地味な数字だったが、澪にはその通信が嬉しかった。
「こんな書類を優先してよかったんでしょうか」
通信係が尋ねる。澪は緊急回線の稼働状況を確かめた。軍の優先通信を塞いではいない。
「直せる艦が一隻増えるかもしれません」
彼女は資料を音羽叶芽へ送り、受領確認を待った。その間に霧生四から水処理の相談が届く。瑞帆六の研究者なら知っていることかもしれない。澪は双方の許可を取り、連絡先をつないだ。
自動配信網では、途中で消えた港の識別符号が残っている。届かない相手へ通信を送り続ける機械もある。澪は古い宛先を削除せず、使える経路と使えない経路を区別した。
夜、叶芽から『試験に使う』と短い返事が来た。続いて霧生四からも礼の言葉が届く。澪はそれらを別々の箱に保存した。
管制室の休憩台には冷めたお茶が残っていた。澪は若い職員へ休むよう声をかけ、次の当直のための引継書を開いた。
細い連絡線を増やす一方、澪は確認できない居住地について安否照会を続けていた。返事のない宛先を見て、若い職員が『もう届かないのでは』と呟いた。澪は頷き、最後に通信が届いた時刻を書き添えた。今の設備では分からない。それ以上のことを断言する材料もない。どこかに生き残った人がいるなら、いつか古い宛先が役立つかもしれない。澪は記録を残し、新しい入港灯へ目を向けた。
航路図では、失われた線のほうがまだずっと多い。それでも細い連絡線を一本増やせた日があった。灯標七の管制室では、また次の船から入港申請が届いていた。




