休む艦長
護衛艦『芦月』の副長、白石咲は、篠宮航の当直表へ休養の印を入れた。艦長は補給と修理の報告を読み続け、まとまった睡眠を取っていない。白石は書類を持ち去り、代わりに艦長室の照明を落とした。
「命令を聞くのは私のほうだぞ」
篠宮が苦笑する。
「次の護衛で判断を誤らないことが、艦長の仕事です」
白石はそう答えた。艦橋には代行できる将校がいる。今夜だけ艦長が眠っても、停泊した艦が勝手に出撃することはない。
艦内には、戦死した乗員の遺品を整理する班も残っていた。白石はその部屋を訪れ、箱の封印を確かめる。送る先の分からない遺品がいくつもある。誰かが名前を知っているかもしれないので、処分の許可を出すわけにはいかなかった。
「艦長にも見せるべきですか」
係員が問う。
「急ぎのもの以外は明日でいい」
彼女は答え、連絡表を作った。
明け方、艦長室の灯りが点いた。篠宮が休めた時間は長くない。それでも白石は夜の報告を簡潔にまとめ、必要なことだけを渡した。
白石が当直室へ戻ると、若い通信士が故郷から届いた手紙を握っていた。中身は無事の知らせではなく、移住の予定だという。白石は特別休暇の規定を確認し、短時間だけでも連絡を取るよう勧めた。人員が少ないとき、休むことを願い出るのは難しい。それを許可する仕組みがなければ、誰も申請しなくなる。白石は通信士の当直を代わり、受話器の向こうで聞こえた安心した声をそっと聞き流した。
夜半、艦内の警報装置が定期試験の音を鳴らした。白石は記録を確認し、艦長室へは連絡しなかった。ほんの数時間でも眠れる人を増やすことが、修理中の艦を前へ進める仕事だった。




