知らせる順番
霧生四の航路監視所へ、遠方の星系から赤い反応の速報が届いた。距離は遠く、接近方向も不確かだった。監視員の秋元莉央は、警報を発するか判断を求められた。
「先に住民へ知らせるべきじゃありませんか」
部下が言った。莉央は画面の端にある『未検証』の文字を見る。知らせずに危険が迫ることも、根拠の弱い警報で避難者が押し寄せることも避けたい。
彼女はまず港湾と医療の責任者へ現状を共有し、機器の検査を始めた。住民向けの放送原稿も同時に作る。発表を遅らせるためではない。確認済みのことと未確認のことを分けて告げるためだった。
数時間後、第二の観測所から返信があった。赤い反応は撮れていない。しかし星の像が細く歪んだ時刻は一致していた。莉央は警戒水準を一段上げるよう進言した。
放送では『侵攻が迫る』とは言わなかった。監視範囲と避難路の点検を始めたことを伝え、住民に今すぐ移動を求める状況ではないと付け加えた。
問い合わせの内容も一件ずつ記録した。同じ質問が多ければ、放送が分かりにくかったということだからだ。
放送の文面については、議会から『不安を煽る』と苦情が入った。莉央は観測の根拠を示し、警戒を上げなかった場合の責任も説明した。議員は難しい顔をしたが、住民への避難訓練の案内だけは認めた。警戒が空振りでも、訓練で覚えた道は残る。莉央は訓練日に市場の搬送路を塞がないよう、保安部と協議した。軍用の警報だけでなく、毎日歩く人の道を守る必要があった。
放送後の問い合わせは多かった。莉央は同じ答えを繰り返す。正確に分からないことを隠さず話すには、勇気よりも根気が要る。監視窓の外はまだ静かなままだった。




