消せない待機名簿
霧生四の仮設住宅管理室で、堀江絹は部屋の割り当て表に線を引いていた。家族の人数と部屋の広さが合わない。高齢者のいる世帯を上階へ移せば、階段の負担が増える。広い部屋を一つ空けると、今夜到着する別の家族を受け入れられない。
「公平に並べればいいんじゃないですか」
助手が言った。絹はその言葉を否定せず、事情の欄を増やした。車椅子、乳児、夜間の医療処置。数字だけでは見えない暮らしがあった。
一つの部屋を二世帯で使う案も出た。絹は本人たちの同意を求め、食事の時間と生活習慣を聞いた。互いに了承した家族には、カーテンと収納棚を追加して仕切りをつくった。
手続きが終わる頃、一人で暮らす女性が部屋の変更を申し出た。自分は階段を上れるから、下の部屋を困っている人へ渡したいという。
「無理はしないでください」
「無理じゃないんです。私にできることです」
絹はその言葉を信じ、女性が移動できる時間に手伝いを集めた。
廊下の壁には、以前の住民が残した小さな時計があった。針は止まっていたが、絹は捨てずに修理を頼んだ。
移動に使える台車が足りず、引っ越しは夜までかかった。絹は荷物の重い人から先に運び、手伝いの住民にも休憩を勧めた。新しい部屋へ入った女性は窓を開け、遠い港灯を見つめた。故郷の星では、同じ時間に雨が降る季節だったという。絹は天気の話を聞きながら鍵の受領欄に印を押した。昔の暮らしを話す声が少し穏やかになったところで、次の移動依頼が届いた。
夜、待機名簿の人数は減りきらなかった。それでも部屋の鍵を受け取った人たちが、新しい廊下で挨拶を交わしていた。絹はまだ空欄の残る表を閉じ、明日の担当者へ引き継いだ。




