取り外した冷却板
灯標七で護衛艦『芦月』の整備を任された音羽叶芽は、交換用の冷却板を探していた。保管庫には似た規格の物が二つある。けれど厚さがわずかに異なり、発熱時の膨張率も違う。
「削れば入ります」
若い整備員が言った。叶芽は首を振る。
「入ることと、持つことは違う」
無理に取り付ければ、出撃直後は動くかもしれない。しかし負荷が増したときには、配管ごと傷める危険がある。叶芽は瑞帆六へ図面を送り、金属の熱処理について問い合わせた。
返信までの間、彼女は艦の古い冷却板を外して調べた。表面の傷は多いが、内部の一部はまだ使える。二枚を組み合わせる案が浮かんだ。試験設備が足りないため、まず灯標七の工場で小さな部品を作り、同じ条件で熱を加える。
艦長の篠宮航が作業場へ来た。
「いつ戻れる」
「正確には分かりません。代わりに、明日までに試験の結果は出せます」
篠宮はうなずき、作業を急がせなかった。出撃命令を受けている艦は一隻ではない。修理を誤れば、次に帰ってこない艦が増えるだけだった。
実験に使った金属片は予想より早く変色した。叶芽は熱を下げてもう一度試す。結果が出るまで、艦長に余計な期待を持たせたくなかった。工場で働く年配の職人が、古い型の冷却板なら別の留め具を使っていたと教えた。叶芽はその図を探し、現在の部品と並べてみる。使えるかもしれない案が増えたことと、安全が証明されたことはまだ別だった。彼女は試験記録の最初にその違いを書いた。
叶芽は外した冷却板へ識別札をつけ、廃棄棚へ置かずに保管した。壊れかけた物にも、まだ残せる部分がある。




