食堂の空席
霧生四の共同食堂では、今日から席の番号札が廃止された。移住者の生活支援員、堀江絹は、椅子を動かす作業を手伝っていた。番号札は混乱を避けるためにつけたものだが、家族が別々の時間に配給を受けると、同じ卓に座れなくなる。
「順番がないと揉めますよ」
食堂長が心配した。絹は配膳の列だけ番号で管理し、食事を受け取ったあとは自由に座れるよう提案した。
初日は椅子が足りなくなった。古い廊下から折り畳み椅子を運び、背もたれの壊れたものは別に積む。修理を頼める整備員も、船の係留作業で手が離せなかった。
夕食の終わり頃、一人の少女が空いている椅子を指した。
「ここ、誰かの席?」
絹が首を振ると、少女は隣の老人へ座るよう勧めた。互いに知り合いではなかった。老人は少し迷ってから腰を下ろし、少女の皿へ自分の焼き菓子を半分置いた。
焼き菓子を分けた老人は、その後少女に故郷の川の話をした。少女はその土地を知らなかったが、自分のいた港の給水塔の形を教えた。二人の故郷は遠く離れている。それでも食卓の上では、ありふれた風景について話せる。絹は会話を邪魔しないよう皿を下げ、廊下で片方の脚を失った椅子を見つけた。明日には修理が済むか分からない。それでも食堂長へ台帳を渡し、必要な席数を隠さず記した。
食堂の隅では、故郷の話を避ける人もいる。家族を探し続ける者もいる。誰も同じ気持ちで食べているわけではなかった。それでも番号で離されずに同じ卓を囲める夜ができた。絹は片づけをしながら、壊れた椅子の数を数えた。明日も誰かが座れるよう、残す仕事があった。




