↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真珠艦隊――人類が敗走する宇宙に、オーケストラが響いた  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/204

名前を呼ぶ通信

避難船『暁環』の客室で、岡倉絵里は娘に靴紐を結ばせていた。


まだ九歳の娘は、結び目を二度ほどいてやり直した。時間は十分にあった。出航時刻が遅れ、乗客たちは窓の外の補給艇を数えるしかなかったからだ。


「お父さんの船、いつ来るの」


「連絡が着いたら迎えに行く約束よ」


絵里はそう答えた。夫の乗る調査艦から最後の通信が届いたのは十一日前。『予定通り移動する』という短い文字だけだった。


客室の共用端末には、家族照会の番号札が山ほど並ぶ。人々は一日に何度も同じ名前を検索した。新しい結果が出ないことを承知で。


夜、船内放送が名前を読み上げた。医療優先の移動対象者、忘れ物の届け出、別の客室へ移った親子。絵里は毎回顔を上げた。


娘も同じだった。父親の名がないと分かると、また靴紐を結ぶ練習を始める。


隣の席の老人が、余った糸で小さな星形を編んで渡してくれた。


「結べるようになったら、これを鞄につけなさい」


娘は礼を言って笑った。老人は故郷の話をしなかった。絵里も聞かなかった。


出航前、絵里は娘を連れて船内の伝言受付へ行った。父親の調査艦宛てに新しい連絡先を残すためだ。受付係は、宛先に通信が届かない場合でも記録を保持すると説明した。娘は紙の端に小さな星を描いた。絵里はそれを消さず、封筒へ入れた。文字だけより、父親がすぐ娘のものだと分かる気がした。


娘が眠ってから、絵里は返事のない通信欄を開いた。送信済みの印だけが静かに並んでいた。


出航のため客室灯が落とされたとき、娘の靴はきれいな二重結びになっていた。絵里はその小さな完成を褒めた。外の星がどれほど遠くても、今ここで教えられることはまだあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。