紛失した三十人
『星渡』の航路士、浅海朔は、乗客名簿から三十人が消えたという報告を受けた。霧生四へ降りたはずの人々が、下船記録にも滞在記録にも見つからない。
「航海中に何か起きたんでしょうか」
若い操縦士が声を落とす。朔はまだ答えなかった。船団には複数の船があり、乗り換えた乗客の札は旧番号のままになっていた。
霧生四の保安主任、久住律と記録を突き合わせる。三十人のうち十八人は仮設居住棟で確認できた。残る十二人も病院船への移送記録が見つかったが、受け入れ先の登録番号が違っていた。
「全員確認できました」
律の声に、朔は初めて肩の力を抜いた。ただし一つ目の名簿を消さないよう頼んだ。間違いの経路を残さなければ、次の船団でも同じことが起きる。
夕方、名簿を修正していた事務員が、最後の一人の名前を二度読み上げた。本人の記録と文字の順序が違う。朔は通信を開き、その人へ名前の読みを確かめた。
乗客名簿の修正には、船橋だけでなく食堂と医療区画の記録も必要だった。病人は寝台番号で管理され、家族は別の区画に登録されていることがある。朔は部署ごとに違う呼び方を一つの表へ載せ、元の記載も残した。職員の一人が『こんな古い欄は消してもいい』と言ったが、彼は否定した。古い番号を知っている人が、あとから家族を探しに来るかもしれなかった。捜索の窓口にも写しを渡した。
窓の外には、長く留め置かれた貨物船が見える。人間は荷物ではない。同じ場所へ運んでも、到着先の番号をつけるだけでは足りなかった。朔は三十人の欄へそれぞれ『所在確認』を記し、やっと端末を閉じた。




