あたためた水
霧生四の仮設居住棟では、給湯が一日に二度しか動かなかった。移住者の生活支援員、堀江絹は、朝の配水時間に子どもを抱いた父親と出会った。
「温かい湯を少しもらえませんか。乳児用の器具を洗いたいんです」
絹は予定表を見た。次の加熱までは六時間ある。医療区画には湯があるが、感染対策のため器具を持ち込めない。
彼女は厨房へ行った。食堂の調理主任が使う蒸気管なら、少量の水だけ温められるという。ただし温度を確かめる計器がない。絹は病院の温度計を借り、冷水と混ぜて適温にする方法を試した。
「毎日、これを続けるんですか」
調理主任が聞いた。
「必要なら。できれば明日からは、もっと楽に」
絹は施設管理室へ依頼書を出した。大規模な設備工事ではなく、小さな加熱器の移設で済むかもしれない。
その日の夕方、父親が洗い終えた器具を乾かしていた。赤ん坊は眠っている。戦況について彼は何も尋ねなかった。代わりに、ここで洗濯物はどこへ干せばいいかと聞いた。
施設管理室からの返答は、必要な電力が取れないというものだった。絹は依頼を引っ込める代わりに、給湯の時間帯をずらす案を出した。配管の空き容量が分かれば、小さな設備を一つ増やせるかもしれない。調理主任は忙しい手を止めずに配管図を探してくれた。誰も特別な約束はしなかったが、台所の壁に一枚の図が増えた。その図を眺める職員が、一人、また一人と増えていった。
絹は空いている室内を案内した。生き延びたあとには、温める水も、乾かす場所も要る。廊下で赤ん坊の小さな寝息を聞きながら、絹は明日の給湯表を書き直した。




