港の外にいる人
霧生四の保安主任、久住律は、港湾扉の前に集まった人々を数えていた。『星渡』から降りた家族のうち、親戚を迎えに来た住民が安全区画の外へあふれている。係員は扉を閉めたいと言った。
「閉めれば、外にいる人の行き先がなくなる」
律は廊下の図面を広げ、使っていない荷扱い通路を見つけた。貨物の搬送予定を変更すれば、待合所へ転用できる。担当の川瀬弥生に聞くと、給水車の通行さえ確保できれば可能だという。
律は床へ黄色い線を引き、家族を探す人だけを先に通した。名簿には似た名前が多い。呼び出すたび、何人も顔を上げては肩を落とす。間違えて案内した子どもが泣き始めると、係員は謝る言葉を探していた。
「次の名前を呼んでください」
律が言った。謝罪を続けて列を止めても、誰かに会える人が増えるわけではない。
夜、待合所の端で年配の夫婦が再会した。大声で喜ぶこともなく、互いの顔を触って確かめている。律は視線を外し、別の家族の照会を続けた。
待合所の奥では、互いの名前を確かめずに抱き合った人々が、間違いに気づいて気まずそうに離れた。律は誰も叱らなかった。灯りの下では服の色も顔の輪郭も違って見える。係員には呼出し番号だけでなく、本人の了解を得て特徴を添えるよう頼んだ。名前を奪われた人々を、再び番号だけに戻したくはない。番号は手段であり、人を決めるものではなかった。記録にもその意図を残した。
線を引いた通路には、帰る人とまだ待つ人が並んでいた。区切りは必要だった。だが、その線が誰かを置き去りにする壁にならないよう、律は最後まで扉の近くに立っていた。




