余剰という文字
灯標七の燃料配分官、矢代壮介は、港湾会議に提出された表の一行を赤く囲んだ。『余剰燃料、四単位』。実際には、緊急発電機の起動に必要な最低量が含まれていた。
「表を作った担当者を呼びますか」
助手が訊く。壮介は紙を戻した。
「責める前に、どの計器を見たのか確かめよう」
旧式タンクの側面には二つの目盛りがある。通常運航用と、停電時の発電用だ。後者の数値を知らない職員なら、確かに余りだと思う。壮介は現場へ出向き、二つの目盛りを一緒に撮影した。
会議では燃料不足を理由に、病院船への給電を短くする案も出ていた。別の担当者は避難艇を一便減らそうとしていた。壮介が修正した表を出すと、誰もすぐには口を開かなかった。計算上の余裕が消えただけで、明日の船がなくなるわけではない。ただ、そのために考え直さなければならないことが増えた。
「霧生四の水再生設備へ部品を送る便は残してください」
壮介は言った。水が止まれば、次の補給航路そのものが閉じる。
夜勤の発電担当者は、写真に添えられた説明を読んで初めて、予備タンクの使い方が変わっていたと知った。壮介は表示板に簡単な矢印を書き加えた。緊急時に長い文書を読めるとは限らないからだ。その作業のために帰宅は遅くなった。食堂で温め直した夕食を受け取ると、同じ時間まで働いていた掃除係が椅子を引いてくれた。机の上にあるのは冷えた食事ではなく、まだ動かせる明日の港だった。
会議が終わると、助手が古い目盛りの写真を各部署へ配った。訂正された表には余剰の文字が消え、その代わりに発電機の起動条件が一行増えた。数字を減らす仕事が、誰かの命を減らさずに済むこともある。




