次の灯を点ける人
灯標七の管制室へ、霧生四から『星渡』帰着の通知が届いた。
倉科澪は航路図に新しい緑点を一つ増やした。同時に、別の外縁拠点との通信が途切れた報告も届いている。喜びと不安が、同じ時刻に机へ並んだ。
音羽叶芽からは、係留環の修理が完了したと連絡があった。湊透は真珠艦隊の観測記録を整理し続けている。病院船『冬星』では義肢の少年が一人で食堂へ歩けたという。
澪はそれぞれの報告を、しかるべき場所へ送った。一人の仕事で港が動いているわけではない。誰も全体を見通せないまま、作業だけは少しずつ受け渡されていく。
昼、共同広場には真珠色の艦影を描いた絵が残っていた。あの音楽を忘れられない人々もいる。だが広場の片隅では、明日乗る避難船の案内が始まり、長い列ができていた。
澪は窓の向こうを見た。暗い宇宙に、真珠色の光はない。赤い脈動の観測点は、いまも消えきっていない。
それでも、新しい避難船が港へ入ってくる。
「係留灯、点灯してください」
澪が告げると、若い職員がスイッチを押した。
避難受付に立つ老職員は、今朝も同じ質問を何度も受けていた。『次の便はどこへ行く』『家族と同じ船に乗れるか』。すべてに良い答えがあるわけではない。澪は受付の椅子を一つ増やし、途中で休めるようにした。老職員は『こんなことまで気にしなくても』と笑ったが、昼過ぎにはその椅子に座って伝票を整理していた。広い星図に映らない小さな工夫が、一つの港をもう半日動かしていた。
小さな緑の光が、港の外へ向かって伸びていく。遠い宇宙で誰が何を争っているのか分からなくても、その灯を必要とする船が、まだそこにいた。




