帰着の水音
霧生四へ『星渡』の先頭船が入ったとき、川瀬弥生は給水口の前に立っていた。
輸送船の外殻には細かな傷があり、予定より多くの修理が必要だった。乗客は到着するとすぐ水を求めた。弥生は一人分ずつの配給容器を並べ、子どもと病人を先に案内した。
「真珠艦隊が来たって本当ですか」
港の作業員が尋ねた。船から降りてきた航路士は、疲れた顔でうなずいた。
「見ました。でも、何が起きたかは分かりません」
弥生はその答えをそのまま受け取った。給水口の前では、遠い艦隊について話す余裕のない人も多い。
夕方、重複していた貨物番号の箱が検査室へ運ばれた。三つのうち一つだけが本物で、残りは配送記録の写しが重なっていただけだった。弥生は最初から一つとして数えていたため、配水計画を変えずに済んだ。
夜、船団の最後尾が遅れて到着した。護衛艇は燃料が少なく、曳航艇が湾内まで引いた。
到着した子どもの一人が、紙に描かれた真珠色の艦影を弥生に見せた。弥生は見たことがないので、どこが正しい形なのか分からない。子どもは『音がずっと流れてた』と説明した。彼女はうなずき、『ここでは給水機がずっと働いていたよ』と答えた。子どもはポンプの方を見て、何か思いついたように笑った。次の紙には、大きな船の横に、小さな給水口も描かれていた。
最後の給水を終えたあとも、弥生はタンクの残量を測り直した。翌日の港には新しい船が来る。今日無事だった分だけ、明日の備えが必要だった。
弥生は最後の給水を終え、濡れた床を拭いた。水の流れる音がいつまでも耳に残る。異様な旋律を聞いたという人々に対し、彼女が今夜渡せたのは温かな水だった。




