↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真珠艦隊――人類が敗走する宇宙に、オーケストラが響いた  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/228

沈黙の輪郭

『星渡』の航路士、浅海朔は、音楽が消える瞬間を記録した。


低い弦の響きが続いていた。次の瞬間、何も聞こえなくなった。まるで誰かが遠くの扉を閉じたようだった。窓の外の真珠色の艦影も、同じときに消えていた。


「離脱方向、分かりません」


操縦士が報告した。朔は測定できなかった項目へ、そのまま不明と入力した。


赤い反応は完全には消えていない。船団の後方と左前方に、断続的な脈動が残る。真珠艦隊が何をしたのか、成果を数える手段すらなかった。


船内では祈りの声が途絶え、代わりに子どもの泣き声がした。音楽が終わったことで安心した人も、不安になった人もいた。


朔は船内放送を入れた。


「航路を継続します。移動中の方は席へ戻ってください」


船長が小さくうなずく。護衛艇の損害確認が済むと、最後尾の一隻から推進器不調の連絡が届いた。


朔は新しい航路を計算した。見慣れない光が消えた宇宙は、少しも優しくなっていない。


音楽を聞いた経験のない若い乗員は、消失の報告をどう書けばいいか迷っていた。朔は『聞こえたまま記せばいい』と伝えた。高音が突然途切れた者も、遠ざかったように感じた者もいる。彼自身には一瞬で消えたとしか思えなかった。異なる証言を揃えるために書き換えることはしなかった。船橋にはまた通常の警報音と機関の唸りだけが戻る。そのありふれた音が、ひどく頼もしく感じられた。


帰着時に比較できるよう、朔は音楽が止んだ時刻と観測の不一致を別々の欄へ記録した。ひとつにまとめれば、大事な違いが見えなくなる。


それでも霧生四の方角には、補給港から送られた航路灯が点いていた。正確な位置を示す、小さく確かな光だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。