旋律の端で
『星渡』の小型護衛艇で、操縦士の葛城修は窓を閉めたがっていた。
真珠色の艦影を見続けていると、距離の感覚が曖昧になる。監視画面へ視線を移しても同じだった。艇長は窓の遮光板を下ろし、推進器の手動運転へ切り替えた。
「赤い反応は?」
「まだある。数は分からん」
艇長の声は静かだった。彼らの艇は航路図から遅れがちで、輸送船団の最後尾にいる。
音楽は、遮光板の向こうでも変わらず響いた。修には、旋律の下に小さな打楽器の音が混じって聞こえた。隣の兵士は、そんな音はしないと言う。
修は口を閉じ、速度計を見ることにした。燃料は減っている。曳航を頼むほどではないが、余裕もない。艇長は主機の出力を少し下げ、輸送船へ機関の状況を伝えた。
そのとき、赤い反応が一瞬だけ航路前方に現れた。修の手が固まる。船長から『右へ一度』という指示が入り、彼は遅れずに操舵した。
船体が静かに傾く。外では真珠色の光がいくつも重なっていた。
操縦席の背後では、若い兵士が手の震えを隠すように膝を握っていた。修は操縦の合間に水筒を渡した。兵士は受け取っても飲めず、ただ手で包んでいる。修も似た気持ちだった。音楽が鳴るほど外の光景が恐ろしくなるのは、おかしなことではない。艇長は二人に短い休憩を命じ、自ら操縦席を引き受けた。数分後、修が戻ると速度計の針は安定していた。誰もが強くいられなくても、持ち場は交代できた。
修は再び窓を見ないまま操縦した。艇長の声が短く続き、そのたびに腕の力が少しずつ戻ってきた。
修は音楽が美しいかどうか、もう考えなかった。艇長の短い声と、速度計の針だけを頼りに、狭い安全帯を進んだ。




