消してはならない灯
霧生四の補給港では、川瀬弥生が到着予定表を前に立ち尽くしていた。
『星渡』からの通信には真珠艦隊の目撃が記されている。港の観測器材には何も映らない。音楽も聞こえない。弥生にとっては遠い船団の出来事でしかなかった。
「船団が助かるのなら、給水を準備しておきましょう」
助手の言葉に、弥生はうなずいた。
小さな港の給水口を七つ開け、古い配管の圧力を一つずつ確かめる。満水まで時間がかかる。故障してから直す余裕はない。
遠方の船団では、美しい音楽が流れているという。ここではポンプの単調な音しか聞こえなかった。それでも弥生は、その音が止まらないことを願った。
夜、港の居住区画から、給水制限を緩めてほしいという要望が届いた。避難してきた家族の幼児が発熱し、洗濯が追いつかないという。弥生は医療用の予備枠を使い、一日だけ量を増やした。
『星渡』のために水を貯めることと、今ここで暮らす人を守ること。二つは競い合うように見えて、どちらも港の役目だった。
霧生四の子どもたちは、到着する船団の絵を窓に貼っていた。船体の数も大きさも想像で描かれている。弥生は給水口を通るときそれを見て、小さく笑った。実際の船は絵ほど整っていないだろう。外壁に傷があり、推進器の音も不規則かもしれない。それでも港へ着けば、水を渡して休ませられる。子どもたちに『船が来たら近づきすぎないで』と伝え、代わりに歓迎の札を作る場所を教えた。待つ側にも準備できることがあった。
弥生は当直表に自分の名前を書き足した。給水口の灯を消さず、次の船を迎えるためだった。




