再び鳴る旋律
『星渡』の航路士、浅海朔は、船橋の奥から音楽が流れ始めたのを聞いた。
誰かが再生装置をつけたのかと思い、通話を開いた。だが全区画から同じ報告が届く。医療室でも機関室でも、音楽が聞こえるという。通信機を切っても止まらない。
「灯標七の報告にあった音か」
船長が呟いた。朔は答えず、観測窓を見た。
暗い星々の間に、真珠色の艦影が浮かんでいた。見る角度によって青にも桃にも見える。艦の輪郭は確かにあるのに、光の境界が定まらない。数を数えようとすると、隣の監視画面と一致しない。
船内の連絡通路では、乗客が一斉に足を止めた。ある者は微笑み、ある者は顔を背けた。以前その音を聞いたという老人が、壁に手を当てて息を整えている。
「進路は変えるか」
船長が尋ねた。
「今は変えないほうがいい。こちらへの接近かどうかも分かりません」
朔は安全帯の中央を維持した。赤い反応はまだ船団の後方に残っている。
最初に音楽を聞いた機関士は、出力が変わったのかと勘違いした。点検の結果、機関には異常がなかった。それでも船内の音がすべて変わったように感じるという。朔は記録のため、聞こえる楽器と音の強さを尋ねた。答えは区画ごとに少しずつ違う。誰かが録音を取ろうとしたが、再生装置からは普通の雑音しか出なかった。朔は音の正体を探すより先に、これによって乗員の作業が妨げられていないかを確かめた。
客室係は乗客の問い合わせが増えたため、案内卓を追加した。窓へ集まる人を押し戻さず、歩く道だけを確保していた。
弦楽器に似た響きが次第に厚くなり、低い音が足元まで満ちた。どこから聞こえるのか分からない音楽の中で、船の推進器だけは確かに動いていた。




