二隻目の航路図
輸送船団『星渡』の航路士、浅海朔は、船橋の床に二枚の星図を広げた。
一枚は軍の新しい警戒図。もう一枚は民間船長が何年も使ってきた古い図だ。警戒図には赤い区域が広く描かれ、古い図には細い補給路が残っている。どちらを信じるかではなく、両方の間違いを探す必要があった。
「霧生四まで直進できますか」
船長が尋ねた。
「できます。ただし護衛艇を置いていく速度になります」
小型護衛艇は推進器の調子が悪く、速度を上げられない。船団を分ければ速い船だけ先へ進めるが、後方は無防備になる。
朔は迂回する案を示した。時間はかかる。食料の残りが心配だ。それでも小型艇を置いていくより、今はまだ安全だと考えた。
客室からは到着予定を尋ねる通信が届いた。朔は『予定変更あり』と正直に答え、理由を簡潔に説明した。
窓の外で、護衛艇が小さな灯を一度点けた。了解の合図だった。
古い星図の余白には、民間船長が昔つけた小さな注意書きがあった。『航路外の漂流物に注意』。何年も前の話だが、朔はその地点を新しい図へ移した。戦争が始まる以前の危険も、今の宇宙から消えたわけではない。護衛艇を待つ間、彼は若い操縦士へ航路の読み方を教えた。急いで答えを出すのではなく、違う時代の資料を照らし合わせる方法だった。長い迂回を進める船内に、少しだけ学ぶ時間ができた。
操縦士は教わった手順を小さな手帳に写した。次の交代でも同じ地図を読めるようにするためだった。
朔は二枚の星図を重ね、通れる可能性のある線を細く引いた。線の先に見える霧生四は、まだ地図の上の点でしかなかった。そこへたどり着く仕事が、彼の一日を占めていた。




