遠い港の朝
灯標七から二つの中継点を越えた霧生四では、補給官の川瀬弥生が水の残量を量っていた。
この港は灯標七より小さい。船を修理できる設備も限られている。それでも戦線を下がった人々にとって、最後の給水場所になることがあった。
「規定の三日分を守るなら、次の船団は受けられません」
助手が言った。弥生は配水表を見た。港で暮らす人の分を削れば、目の前の船は出せる。だが港に子どもと病人が残る。
「給水設備の再生率を上げられるか、整備班に聞いて」
返事は簡単だった。古いろ過膜が足りない。
弥生は倉庫を歩き回り、使われていない農業施設から代替の膜を探し出した。性能は落ちるが、汚れの少ない循環水なら処理できるという。技師に試験を頼んだ。
夕方、遠方から船団『星渡』の接近予定が届いた。人数の欄は空白で、輸送船の数だけが書かれていた。弥生は必要な水の量を計算できないまま、タンクを洗浄し始めた。
ろ過膜の試験では、最初の水が濁っていた。弥生はすぐに給水へ回さず、再生装置の流量を半分に落とした。何度目かの試験でようやく基準値に入る。技師は『あと何日持つかは分からない』と言った。弥生は交換目安を早めに設定し、壊れたときの配水順序まで作った。船団が来る頃に設備が止まれば、歓迎の言葉だけでは役に立たない。彼女は一つずつ確認印を押し、夜勤の職員へ作業を引き継いだ。
遠くの船へ水を渡すために、港に残る人の水まで汚すわけにはいかなかった。
夜、港の窓から見える星は少なかった。どこかで赤色未同定群が観測されたらしい。弥生は空を見上げず、計量器の針が戻るのを待った。船が来たとき渡せるものを、今は増やしたかった。




