通れる一本
『芦月』が戻った頃、灯標七の航路図からもう一本の退避路が消えかけていた。
通信中継器の破損が広がり、遠方の位置確認ができなくなっている。倉科澪は航路を閉じるべきか迷った。残る一本に全船を集めれば、何か起きたとき逃げ場がない。
「無人探査機で確かめられますか」
彼女は湊透に尋ねた。
「使えるものが二基あります。ただ、戻るまで時間がかかります」
澪はその時間を選んだ。近道の安全を願うだけで人を通すわけにはいかない。
無人機が出たあと、航路を待つ船長たちが管制室へ押しかけた。燃料が足りない船もある。乗客が病気の船もある。
澪は一隻ずつ事情を聞き、緊急度に応じて残る一本へ振り分けた。順番を下げられた船長は怒ったが、別の船に急病人がいると知ると黙った。
夜明け前、無人機の一基が戻った。通信は不安定だったものの、通路の一部に致命的な障害は見つからなかった。残りの区間は分からないままだ。
澪は開放条件を細かく記し、試験便を一隻だけ通した。危険がないと証明できたからではない。何も知らずに全船を送り込まないためだった。
試験便へ乗った船長は、出発前に『戻る道は残るのか』と尋ねた。澪は正確な帰路を保証できず、途中の分岐で引き返す条件を細かく示した。船長はそれを読み、進むと決めた。残る港の人々にとっても、その便が戻れば航路が少し広がる。澪は窓から船を追い、観測室との通信を保った。帰還時刻はまだ決められない。だからこそ燃料の限界時刻だけは全員で共有し、越えたときの捜索手順を先に用意した。
無人機の記録には、思ったより小さな漂流片が映っていた。澪は掃除用の回収艇を出す案も考えたが、まず航路を守る仕事を優先した。




