誰のための警報
灯標七の外縁警報は、夜の配給時間に鳴り始めた。
最初の一報は赤色未同定群の可能性。次の一報では距離不明。三報目には誤観測の疑いが付いた。倉科澪は放送室に入り、避難命令と注意喚起を別々に準備させた。
早く避難させれば混乱が起こる。遅れれば取り返しがつかない。彼女は観測室からの確証を待ちながら、病院船だけ先に移動できるよう手配した。
廊下では人々が配給皿を手に立ち止まっている。子どもたちは大人の顔を見ていた。
「現時点では港の機能を維持します」
澪の声が通路へ流れた。曖昧な安心は口にしなかった。
外側の監視艇が警報原因を特定した。赤い反応ではなく、損傷した輸送艇が不規則な光を反射していたらしい。ただし、その先の宙域に赤がないと証明されたわけではない。
澪は警報を解除し、監視を続けるよう命じた。配給所では冷めた食事が配り直された。
仕事に戻る途中、澪は管制室の新人に言った。
「誤報を恥じなくていい。ただ、次も確かめることを忘れないで」
警報が鳴る前、食堂の係は配給を終えて休もうとしていた。解除後、皿を並べ直すため再び厨房に立った。澪はそのことを聞き、余っていた補助職員を食堂へ送った。軍の監視網には表示されないが、警報を鳴らすたびに誰かの労働が増える。誤報を減らすことも、解除を早めることも重要だった。ただ、危険の知らせを遅らせてはいけない。その矛盾を職員たちが一人で背負わないよう、澪は勤務表に支援枠を追加した。
新人はうなずき、記録の確認を始めた。警報は人を怖がらせるためではなく、人を動かすためのものだった。




