最後尾の貨物船
居住拠点からの最終輸送に、篠宮航は護衛艦『芦月』をつけた。
前方の客船は予定通り進んだが、最後尾の貨物船だけが遅れた。積載限界まで人が乗っている。推進機に負担をかければ、かえって止まる危険がある。
「荷物を捨てろとは言えませんね」
副長が呟いた。積荷には医療器具と、避難先で使う水の再生装置がある。捨てれば船は速くなるが、着いてから困る。
篠宮は客船の一部を先行させ、貨物船の傍に留まった。後方では赤い反応が断続的に現れている。
「時間を稼げますか」
貨物船長から通信が届いた。
「必要な時間を言ってくれ」
「一時間です」
篠宮は航路図を見た。一時間は長い。敵の位置も正確には分からない。
「約束はできない。だがここにいる」
彼はそう返した。
乗員たちは砲塔を再点検し、損傷した推進機を手動で補正した。誰も奇跡を待っていない。
貨物船から幼い子の声が通信に紛れ込んだ。艦橋を通してしまったのは操作ミスらしい。子どもは『船はいつ着くの』と繰り返していた。篠宮は直接返事をしなかった。慰めるために嘘の時刻を言うことはできない。代わりに航路士へ最も確かな到着見込みを計算させ、貨物船長に渡した。船長が客室へ説明に行く間も、『芦月』は最後尾の灯を見失わない位置を保った。遅い船に合わせた速度は、誰にとっても長い時間だった。
貨物船の通信が静かになると、篠宮は乗員へ短い食事休憩を回した。砲塔を守る者にも食べる時間が要る。彼自身は最後の順番にした。
やがて貨物船が安全な進路へ入った。『芦月』は退避を始める。背後の赤い反応は消えなかったが、少なくとも最後尾の船は先へ進んでいた。




