修理不能の知らせ
造船所『天河四』へ、前線から回収された護衛艦の船首だけが運ばれてきた。
春日井律は識別番号を読み、かつて自分が建造に携わった艦だと気づいた。残る船体はない。乗員の生還数も確定していなかった。
回収班は部品の再利用を求めた。主装甲の一部は使える可能性があるが、赤い表面に触れた箇所は検査値が安定しない。律は安全確認の終わらない部材を切り分けて隔離させた。
「時間がありません」
回収班長が言う。
「だから、使っていいと分からないものは使えない」
律も声を強めなかった。
若い工員が、船首に残っていた小さな銘板を見つけた。進水の日付と、建造に関わった工員の名が刻まれている。今も天河四に残る者は、そのうち三分の一ほどだった。
律は銘板を取り外し、洗って保管した。金属は再利用する。だが名だけは溶かさなくてもよい。
夕方、完成途上の新しい船体へ、生命維持装置が一基据え付けられた。作業員たちは黙って固定具を締めた。
船首の内側からは、数人の乗員が置いていた手書きの伝言が見つかった。『工具を戻すこと』『冷却管を確認すること』。律はそれらを読み、記録係に写しを取らせた。伝言を書いた人たちの安否は分からない。だが、そこに仕事をしていた人間がいたことは確かだった。若い工員が伝言を新しい船体の作業台に置いてよいか尋ねた。律は原本を保管したうえで、写しを掲げることを認めた。人を消さずに技術を渡すためだった。
律はその船の用途欄をまだ空けていた。護衛艦になるか、避難船になるか。どちらを選んでも、帰ってこなかった人々を取り戻すことはできなかった。




