赤い影のない朝
灯標七の外縁監視網から、赤色未同定群の反応が一時的に消えた。
倉科澪の机には『警戒解除の可否』と題した問い合わせが積まれた。運送会社は出航枠を増やしたい。居住管理局は家族の移動を進めたい。誰も無謀だから急いでいるわけではなかった。
澪は湊透へ観測結果を尋ねた。
「反応がないことは確認しました。いなくなったことは確認できません」
透はそう答えた。外縁の監視艇も減り、観測できない空間は以前より広い。
澪は警戒等級を一段だけ下げ、航路の開放幅は変えなかった。待たされる船から抗議が届く。彼女は同じ説明を繰り返した。
午後、供給不足だった医療用の密封材が入港した。病院船へ急いで運ぶと、患者の隔離室を一つ増やせるという。澪はその便を優先した。
平穏に見える時間も、港の仕事は減らなかった。壊れた設備を直し、食料を配り、帰港を待つ。
夜、観測室から小さな赤い点が再報告された。澪は警戒等級を戻す前に座標を確認した。誤報なら人々の予定をまた変えることになる。
透から『再観測中』と返事が届く。澪は受話器を置かず、結果を待った。静かな朝があったことと、危険が去ったことは違っていた。
観測室から再報告が来るまでに、澪は三つの航路申請へ『審査継続』と返した。船長たちには申し訳ないが、確かめる時間を作るしかない。しばらくして透から、反応が同じ位置に留まっていると連絡が入った。監視機器の残像である可能性が高い。ただし別の監視艇から確認できないため断定はできない。澪は警戒等級を維持し、移動を許した船だけに追加の観測手順を渡した。止めることと進めることは、時に同じ責任を伴った。




