冬の港湾台帳
灯標七では季節が巡らない。それでも港湾整備士の音羽叶芽は、倉庫の棚を毎年「冬仕様」に並べ替えていた。
「温度制御機を止める区画が増えたから、結露材を手前に置くんです」
新入りに説明すると、青年は理解できない顔でうなずいた。外は一年中同じ宇宙だ。それでも住む人間には、熱の足りない夜がある。
叶芽は整備台帳を開いた。記録上は使える牽引機が二十七機、現物は十九機。差の八機は、撤収した前線港からの移送命令だけが残っている。現物が着かないまま、書類だけが何度も更新されていた。
「壊れた機械を直すより、存在しない機械を探すほうが疲れますね」
青年が苦笑した。叶芽は笑わず、倉庫の扉を開けた。
二人で折れた係留腕を運ぶ。救援艇が増えるほど、港は満員になる。満員になれば衝突事故が起こり、避難し終えた人まで死んでしまう。だから彼らは、誰にも見えない小さな修理を繰り返す。
昼過ぎ、古い居住区画から毛布の寄付が届いた。引っ越した人々の荷物だという。叶芽は個数を数え、病院船へ二十六枚、避難受付へ十三枚と記した。
最後の一枚に、子どもの字で持ち主の名前が縫い付けられていた。叶芽は消さずに包み直した。
倉庫の隅には、廃棄予定の児童用机が積まれていた。脚が一本足りないもの、天板に傷があるものばかりだ。叶芽は使える脚を組み合わせ、十台だけ直した。学校区画へ運ぶと、教師が深く頭を下げる。叶芽は慌てて手を振った。今日直したのは机であって、失われた学校ではない。それでも明日の授業に使えるなら十分だった。
台帳の余白に「帰港者の持ち物」と書き加える。港は船だけを受け入れる場所ではない。名前をつけた何かを、次の場所へ送り出すところでもあった。




