七分間の食堂
病院船『冬星』の食堂では、食事の時間が七分に決められていた。
患者を受け入れるたびに医療区画が増え、食堂の半分が簡易病床になったためだ。看護主任の鷺沢沙耶は、湯気のない粥を口に運びながら、隣で眠る少年を見ていた。片足の義肢はまだ寸法が合っていない。
「母親は見つかりましたか」
栄養士の問いに、沙耶は端末を見た。少年が乗ってきた船は、避難名簿に三つの登録番号を持っていた。どの番号にも母親の記載がある。しかし三人とも、別の港で降りたことになっていた。
「連絡照合を続けます。誰かが間違えているだけかもしれません」
少年は目を開け、食堂の時計を見た。
「ここはもう安全なの」
沙耶には答えがなかった。代わりに、明日の朝には義肢の調整ができると告げた。少年は安心したようにうなずき、また眠った。
食堂の奥では医師が医薬品を半量で運用する案を話している。反対する者もいた。議論の声は小さい。誰も不足を招いたわけではないからだ。
配膳時間の終了を知らせる灯が点いた。沙耶は残した粥を紙容器に移し、病室へ持ち帰った。食べ盛りの子どもがまだ何人もいる。
少年の隣の寝台では、年老いた女性が家族の写真を抱いていた。連絡先が失われても、写真の裏に書かれた名前だけは読める。沙耶は一つずつ照会の端末へ入力し、同姓同名の候補を別の欄へ分けた。患者が眠ったあとも、画面の小さな文字は増え続けた。見つからない人が多いからこそ、探す手を止めるわけにはいかなかった。
廊下を通ると、壁には古い寄港地の観光広告が貼られていた。湖と森を描いた明るい絵。その星系はもう航路図にない。沙耶は広告を剥がさなかった。誰かが故郷の景色だと気づく日が、まだ来るかもしれなかった。




