小さな停電
灯標七の居住区画で停電が起きたのは、仮眠時間の直前だった。
藤堂楓は暗い廊下に非常灯が順番に点くのを見て、子どものいる部屋へ急いだ。電力不足ではない。古い配電盤が、新しく接続した医療区画の負荷に耐えられなかったらしい。
幼い兄妹が扉の隅で泣いていた。楓は携帯灯を床へ置き、二人と目線を合わせた。
「今はここにいます。お母さんのところまで一緒に行こう」
別の部屋では、避難してきた技師が配電盤の型番を調べていた。故郷の港で使っていたものと同じだという。楓は整備班へ連絡し、技師を案内した。
配線を切り替える間、商業区画の一部を停電させる必要があった。店主たちは冷蔵保管品を病院船へ預け、通路に手持ちの灯を並べた。誰かが拍手を始めるようなことはない。ただ、それぞれができることをしている。
明け方、居住区画に明かりが戻った。楓は部屋を一つずつ回り、動かなくなった医療器具がないか確認した。
修理に来た技師は、停電中も子どもが泣きやむよう、古い歌を低い声で歌っていた。楓は聞き覚えのない旋律に耳を傾けた。真珠艦隊の音楽とは似ても似つかない、少し音程の外れた故郷の歌だという。明かりが戻ると、技師は歌うのをやめた。子どもたちはもう泣いていない。楓はその人へ、次の避難者を案内する仕事を頼んだ。歌のうまさより、そこに一緒にいてくれることがありがたかった。
子どもが覚えた歌を口ずさむと、暗い廊下で聞いていた大人も一緒に声を出した。いつか違う港へ移っても残る歌だった。
廊下には、知らない人たちが貸し借りした灯の印が残っていた。返却先を間違えないよう、楓は札に名を書き込んだ。夜が終わっても、助け合いの手順はそのまま残った。




