ないはずの荷物
灯標七の貨物係、成瀬亘は、送り主のいない箱を受け取った。
箱の中身は古い手紙と種子、それに故郷の地図だった。宛名は避難船『暁環』の乗客を指している。しかし積載記録にも検査票にも、その箱が出荷された痕跡はなかった。
「危険物として処分しますか」
同僚が聞く。亘は箱を閉じ、まず検査室へ回した。種子は持ち込み制限に触れる可能性がある。手紙の封は開けず、宛名だけを照合した。
結果は安全だった。送り主の欄には番号が一つ残っており、調べると第十八居住星系の港湾倉庫に結びついた。いまは通信途絶の星系だ。
亘は箱を眺めた。いつ、誰が、どうやって運んだのか。貨物経路をさかのぼると、複数の中継港で同じ番号が上書きされていた。どこかで混載されたのだろう。
「送り先には渡せますか」
「次の便なら、可能だ」
亘は再梱包し、手書きの札を付けた。戦争で航路が変わっても、荷物を届けるという仕事まで消えたわけではない。
夜、箱を船に積み込むと、整備士が中身を尋ねた。亘は『誰かの家のものだよ』とだけ答えた。
その船は翌朝、後方へ向かった。亘は台帳の一行を消し、代わりに受領確認待ちの印をつけた。
箱を届けた女性から、次の便で種子の一部を灯標七へ戻してもよいか問い合わせが来た。狭い避難先では全部を育てられないという。亘は検疫官へ相談し、試験用の小区画なら受け取れると答えた。種を運ぶためだけに大きな船を出すことはできない。だが補給船の空き箱一つを使うなら可能だった。人が移動した先でも、故郷の木を育てる方法は残っているのかもしれなかった。
検疫官は種子の由来を記録する紙を渡した。亘は箱の宛名と一緒に保管し、取り違えを防いだ。




