消えない通話灯
第十八居住星系へ向かった小型観測艇『薄明』の通信は、途切れずに続いていた。
ただし会話にはならない。艇長の那須莉央が応答しても、返ってくるのは一か月前の救難信号とよく似た一行だけだった。発信元の座標は航路の外にあり、近づけば帰還燃料が足りなくなる。
「行って確かめましょう」
若い操縦士が言った。莉央は燃料計を示した。
「ここで戻れば、もう一度来られる。奥へ入れば、今夜で終わるかもしれない」
操縦士は黙った。彼の兄が、その星系で行方不明になっていた。
莉央は小型探査機を一基だけ放った。長い時間をかけて進む古い型だ。途中で失われるかもしれない。それでも、人が戻れなくなる地点を越えるのは無人機だけにした。
救難信号は、探査機を放ってからも続いた。変化はない。莉央は通信を録音し、送信した日時を船内台帳へ細かく書いた。
帰路、操縦士が兄の話を始めた。料理が下手だったこと、休日に古い地図を集めていたこと。莉央は聞きながら操舵盤を見守った。
灯標七へ帰着すると、艇の通話灯はまだ点いていた。信号を切ることは簡単だったが、莉央は記録装置のほうだけを止めた。声が届く可能性を、今夜はまだ閉じたくなかった。
灯標七で待っていた通信係は、帰還した莉央へ『兄の話をした操縦士の名』を尋ねた。照会を手伝えるかもしれないという。莉央は本人の同意を得て、記録の共有を許した。救難信号の発信元を推測するより先に、行方を探す人々の連絡網をつなぐ。戻った艇の機関がまだ熱いうちに、小さな照会の輪ができた。返事がなくても、翌朝また確認できる相手が増えたことだけは確かだった。




