空室の灯
灯標七の居住管理官、藤堂楓は、空室一覧を毎晩更新していた。
避難者が増えたため、かつての商業区画も住居へ変えた。床の硬い旧展示室には二十家族が眠り、階段の踊り場にはベビーカーが並ぶ。楓は床暖房のある部屋から幼い子を案内した。
「ここは、いつまで使えるんでしょう」
母親が尋ねた。楓には答えられない。港そのものが移転候補に入っている。
「明日の朝までは、ここです。明後日の情報は、分かり次第伝えます」
母親はうなずき、荷物を隅へ置いた。
居住区画では、異なる星系から来た人々の生活習慣が衝突した。消灯時間、食事の匂い、子どもの遊ぶ場所。楓は規則を一つずつ見直し、互いの事情を説明する小さな集まりを開いた。
思わぬところで、旧展示室に飾られていた絵が役に立った。知らない故郷の風景を見ながら話すと、人々は自分の土地の話をし始めた。
夜、楓は廊下を巡回した。小さな常夜灯が、部屋の入口に一つずつ点いている。
空室の一つに、前の住人が残した古い星図が貼られていた。新しく入った家族は剥がしてよいか尋ねた。楓は迷い、保管箱に移すことを提案した。元の持ち主が戻る可能性を、誰も否定できない。母親は丁寧に図を巻き、箱へ納めた。代わりに自分たちの故郷の写真を飾る。部屋は昨日までとは違う家族の場所になったが、前に住んだ人がいたことまで消えたわけではなかった。
家族の子どもは、新しい写真の横に小さな紙の星を貼った。楓は黙って見守った。住まいを作る順番は、人それぞれだった。
明日になれば移る人もいる。もう戻らない人もいる。彼女は空室表の数字を見ず、眠る家族の数だけ灯を確かめた。足音を立てないよう、最後の扉を閉めた。




