溶接の火花
灯標七の外壁整備では、音羽叶芽が無重力用の溶接器を握っていた。
修理するのは、赤い衝撃によって緩んだ補助係留環。目立つ破壊はないが、金属の接合面が少しずつ裂けている。大型船が一度でも強く引けば、環ごと外れる可能性があった。
「予備の環はありませんか」
新入りが尋ねた。
「別の港にある。今、届くとは限らない」
叶芽は古い補修板を切り出し、外壁に合わせて削った。新品と違って形が整わない。手間はかかるが、構造試験に通れば使える。
作業中、ヘルメットの通信に真珠艦隊の録音が紛れ込んだ。誰かが慰めになると考えて、共有回線に流したらしい。叶芽は通信を切った。
「作業中に聞くものじゃない」
足元では、係留船の振動がわずかに伝わる。音を聞き逃せば破断の兆候に気づけない。
六時間後、補修板の試験が終わった。規定値にはぎりぎり届いている。叶芽は完成印の横に、再検査予定日を大きく書いた。
控室へ戻ると、整備員の一人があの音楽を聴いていた。叶芽は止めなかった。
「きれいだろ」
「そうだね。でも、明日もここを直すよ」
溶接の途中、金属片が手袋をかすめた。叶芽は手を止め、傷のある手袋を交換した。若い整備士は『まだ使えそうです』と言ったが、彼女は首を振った。装備を惜しんで人が失われれば、その後の修理ができない。新しい手袋が足りなくなりつつあることは承知している。それでも予備の数を正直に台帳へ書き、補給を頼むしかなかった。安全な仕事を続けるのも戦いだった。
翌朝の補修予定には、手袋の確認を最初に書いた。忙しいからと飛ばしていい手順ではなかった。新入りも自分の手袋を見直した。
二人は冷めた飲み物を分け、次の補修箇所を確かめた。




