↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真珠艦隊――人類が敗走する宇宙に、オーケストラが響いた  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/204

腕時計を直す医師

病院船『冬星』で、鷺沢沙耶は患者の腕時計を修理していた。


正確には時計の技術者ではない。医療室に届いた小さな時計が、何度合わせても狂うため、電池と制御部を取り替えていただけだった。持ち主は前線から戻った老兵で、妻との約束時刻を忘れたくないと言った。


「この時間に、毎日連絡することになっていた」


老兵は苦笑する。妻がどの港にいるか、今は分からない。時計だけが手元に残っていた。


沙耶は余っていた検査端末を使い、時計の振れを測った。故障は簡単なものだった。新しい部品を入れると、数字が安定した。


「またずれるかもしれません」


「構わない。手で合わせられるなら」


老兵は時計を受け取ると、しばらくその文字盤を眺めた。


医療室では時間の単位が不規則になっていた。救急搬送が重なれば昼食は深夜になり、子どもの眠る時間もずれていく。沙耶は患者ごとに小さな予定札をつけ、起きる時間だけはできるだけ変えないようにした。


夕方、義肢の調整を終えた少年が廊下を歩いた。手すりにしがみつきながらも、自分の足で十歩進んだ。


老兵は修理された時計を着け、医療室の窓へ歩いていった。『妻なら、この時間は庭にいた』と話す。沙耶は庭の写真を見せてもらった。星系ごとに重力も光も違うが、小さな鉢に花を育てる習慣は多くの土地にあるらしい。老兵が眠ったあと、沙耶は花の名前を看護記録の備考欄へ残した。治療に直接必要のない情報でも、目覚めたとき話せることが一つ増えると思った。


沙耶はその十歩を記録に残した。星系の勝敗がどうなろうと、身体が覚える一歩には時間が必要だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。