青い教室の地図
避難児童を受け入れる青い教室では、教師の羽鳥梢が星図を裏返していた。
表側には故郷の位置がある。灰色に塗られた星系が多く、子どもたちはそこへ目を向けるたび沈黙した。裏側には、子どもたちが描いた空想の街が並ぶ。
「今日の授業は道案内です」
梢が言うと、一人の少年が手を挙げた。
「帰る道がないときは、どうするの」
梢は答えを急がなかった。彼自身の故郷は、いまも連絡不能の星系にある。
「今いる場所から、行ける道を調べます」
そう言って、校舎から病院船までの道を皆で描いた。食料配給所、補修中の通路、点灯しない階段。現実の地図には難しいことがたくさんある。
授業の後半、真珠色の艦隊を見た少女が、大きな白い船を描いた。周囲の子が集まり、音楽の話になった。聞いた子と聞いていない子がいて、それぞれの経験を言い合う。
梢は否定も肯定もしなかった。ただ、実際に渡れる通路を描く時間へ戻した。
放課後、少年が病院船までの地図を清書して持ってきた。
「これなら、友だちを迎えに行ける」
昼休み、梢は子どもたちから故郷の遊びを一つずつ教わった。重力の弱い星で流行った跳び遊びや、人工雪を使う競争もあった。実際の教室でできるものは少なかったが、ルールだけでも書き残せる。梢は紙を束ね、遊びの名前と教えた子の名を添えた。いずれ違う港の子に伝えられるかもしれない。知らない土地の習慣を知ることも、明日ここで一緒に暮らすための準備だった。
梢は地図の角を補強し、壁に貼った。人類の星図は毎日変わっても、今日の校舎から病院船までの道は、まだ消えていなかった。




