骨組みだけの造船所
後方造船所『天河四』では、完成予定の護衛艦が骨組みのまま並んでいた。
造船主任の春日井律は、毎朝一番に工数表を見る。資材が足りない。技師も足りない。戦艦を作れる巨大な施設があっても、配線用の小さな絶縁部材が入ってこなければ何も動かない。
「主砲を外して輸送艦に転用しましょうか」
若い設計士の提案に、律はすぐ返答しなかった。護衛艦がなければ船団を守れない。輸送艦がなければ避難民を運べない。どちらも足りないのだ。
律は未完成船の格納区画を歩いた。溶接跡の温かい壁に手を当てると、かつてここで働いていた同僚の顔が浮かんだ。大半は前線基地へ移り、もう戻っていない。
彼は設計士へ言った。
「船体は残せ。まず生命維持系を先に完成させる。どちらに使うか決めるのは、そのあとだ」
建造順序を変えるだけで工員たちの仕事は増える。それでも、艦として動かせる選択肢を残しておきたかった。
夕方、天河四の食堂に、灯標七で見られた真珠色の艦隊の映像が流れた。工員が手を止める。律は映像を消させなかった。
工員の一人は、船体の外側に故郷の港の名を書きたいと申し出た。律は規則に従い却下したが、作業員控室の壁へ小さな札を掛けることは認めた。ほどなく札は増え、聞いたことのない港の名前が一列になった。律は毎日それを眺めてから仕事を始めた。ここで造っているのは船体だけではない。どこかの海や街を知っていた人々が、また移動できる場所を作っているのだと感じた。
数分後、皆が工具を取って作業へ戻る。どんな光が外に現れても、目の前の骨組みは自分たちの手でしか完成しなかった。




