受信した一行
『暁環』が安全圏側の港へ到着した報告は、灯標七に四時間遅れて届いた。
倉科澪は乗客名簿と照らし合わせ、受け入れ人数の差を確かめた。途中で生まれた子どもが一人。航海中に亡くなった老人が二人。名簿の数字が三つ変わるだけで、家族の人生は大きく動いていた。
船内からの通信には、真珠艦隊の目撃談が長く記されていた。澪は広報用の記録と、救難用の記録を分けて保存した。奇妙な音を聞いた者の中には、眠れなくなった者もいたらしい。
「港の人たちに、ありがとうって」
稲城結衣から短い音声が届いた。澪は整備室へ転送した。
音羽叶芽はそれを聞き終え、作業中の若い整備士へ言った。
「あなたの付け替えた弁、ちゃんと向こうまで持ったって」
整備士は顔を上げ、しばらく何も言えなかった。
その日の夕方、澪の端末へ別の連絡が入った。灯標七の外縁に、赤色未同定群の反応が新たに記録されたという。港の避難予定はまだ半分も終わっていない。
澪は『暁環』の到着印を押し、新しい警戒票を開いた。二つの知らせを混ぜないよう、別々の欄へ記した。
到着した『暁環』の乗客から、忘れ物の照会が相次いだ。病院船へ運ばれた人の衣服や、乗船口に置いた鞄。澪は専任窓口を一つ作り、短い通信だけでも照合できるようにした。危険な航路を抜けた先で、見慣れた物を探す人がいる。それは些細なことではなかった。乗客の小さな生活が戻り始めている証拠でもある。澪は窓口の番号を到着通知へ添えて送った。
最後に、届いた音声の一行だけを整備班へ残した。『ありがとう』。誰の勝利でもない航海だったが、港にとっては確かな帰着だった。




