真珠という呼び名
灯標七の会議室では、真珠色の艦影をどう呼ぶかで意見が割れていた。
軍は『未登録第三群』とする案を出した。科学局は『白色多層発光体』。民間放送はすでに『真珠艦隊』という言葉を使っていた。最初に口にしたのが誰かは分からない。
管制官の倉科澪は、会議の一番端で乗客からの問い合わせ記録を並べていた。質問の大半は『次はいつ来るのか』『助けてくれるのか』だった。答えられる職員はいない。
「名称だけでも統一すべきでしょう」
司令官の発言に、澪は手を挙げた。
「呼び名は必要です。ただし、名前をつけても目的は分かりません。放送ではその点を添えてください」
軍の代表が難しい顔をした。住民を落ち着かせるには希望が要るという。澪は否定しなかった。ただ、真珠色の光が消えたあとも赤い反応が残った記録を示した。
会議後、仮の通称として『真珠艦隊』が採用された。正式な所属欄は空白のまま残された。
通路へ出ると、子どもたちが紙で白い小舟を作っていた。窓辺には何隻も並ぶ。大人はそれを見て微笑んだが、立ち止まる時間は短かった。
軍の古参士官は、通称が独り歩きすることを案じていた。過去にも、未確認の兵器に勇ましい名をつけて損害を拡大したことがあるという。澪はその話を聞き、通称の直後に『所属不明』を印刷する案を出した。広報係は紙面が長くなると困った顔をしたが、最後には欄を広げた。言葉一つで人が危険な場所へ進むこともある。だから短い注記を省かなかった。
澪は広報文書へ一行加えた。『真珠艦隊の行動は未解明。通常の避難計画を続行すること』。印刷された紙は、その日のうちに全係留区画へ運ばれていった。




