数えられない艦影
『芦月』の三崎千秋は、真珠色の艦影の数を答えられなかった。
観測画面には十六。窓から見れば九。別の艦の監視映像には二十一。それぞれの映像が記録した時刻は一致しているのに、どれも間違いだと断言できなかった。
「光学的な重なりか、分裂か」
解析員が可能性を並べる。千秋は一つずつ記録へ残し、結論欄を空けた。
音楽は続いている。彼女には低い弦と、遠くの鐘のような音が聞こえた。隣の観測士は『管の音が多い』と言った。同じ旋律だと互いに感じながら、楽器の内訳は揃わない。
赤い反応が強まったとき、千秋は『暁環』の位置を確認した。避難船は予定より遅いが、安全帯の内側にいる。その報告だけが、艦橋で確かな数字だった。
真珠色の光の近くで、赤い輪郭が突然途切れた。破片も、爆発も、推進炎も見えない。先ほどより赤い領域が減ったように映る。しかし同じ場所を再観測すると、別の赤い縁が現れた。
千秋は報告を口頭で繰り返した。
「敵損害、不明。第三勢力の損害、不明。進路への影響、なお不明」
誰も苛立たなかった。分からないものに番号をつけ、勝敗の欄を埋めるほど簡単な宇宙ではなかった。
記録係が『敵が減った』と書きかけたので、千秋はその語を修正した。反応が消えただけで、移動したのか失われたのか分からないからだ。係は謝ったが、千秋は責めなかった。窓の外の光はあまりにも異様で、誰だって確かな言葉を求めたくなる。彼女自身も胸の中では、避難船が救われたと思いたがっていた。
彼女は星図の端へ一つだけ印を描いた。そこには、正確な位置を示す座標を書けなかった。




