赤の前に立つもの
篠宮航は砲術画面を開き、真珠色の艦影を攻撃対象から外した。
赤色未同定群は、これまでの進路予測から見れば『暁環』の後方に迫っている。だが真珠色の複数の光は、その間にいるように見えた。単に重なっているだけなのか、何かを遮っているのか、判断できない。
「赤の脈動、変化しました」
観測士が報告した。周期の異なる光が乱れ、赤い像の一部が暗くなる。閃光があったわけではない。衝撃波も測れない。人類の兵器が作る戦闘映像とは、どこも似ていなかった。
篠宮は外の光景を見つめた。弦楽器の旋律が艦橋にも満ちている。思わず目を奪われそうになるほど整った響きだった。
そのとき、艦内で負傷者の報告が入った。観測窓を見ていた砲手が倒れ、手すりに額を打ったという。
「救護班を送れ。視認だけで体調に影響があるか調べろ」
艦長は命じた。原因が光なのか、直前の赤い接触の影響なのか、何も分かっていない。
赤い像が一つ消えた。次に別の位置で増えた。真珠色の光はそこへ向かったようにも見えたが、推進の痕跡は測れなかった。
航海日誌の書式には『交戦相手』と『戦果』の欄があった。篠宮はどちらにも不明と記した。もし真珠色の艦影を味方と書けば、次の艦長が誤って接近するかもしれない。敵と断じれば、何もしていない船を撃つ危険がある。曖昧さを残すことに不満を示す参謀もいたが、彼は観測できたもの以上を記録に加えなかった。
篠宮は勝利報告を求める司令部へ、観測した事実だけを送った。『第三勢力らしき艦影あり。所属、目的、交戦状態は不明』。何者かが現れても、人類の危機はまだ終わっていない。




