帰らない偵察機
護衛艦『芦月』が監視する宙域で、無人偵察機の通信が途絶えた。白石は喪失の警報を消し、最後に届いた測定値を拡大した。赤い反応が映っている。ただし、偵察機の故障でも同じ揺れが出る可能性があった。
「確認に行きましょう」
若い兵士が進言した。篠宮航は否定した。芦月の冷却器には制限があり、偵察機を探しに加速すれば、後方の退避航路から離れる。帰れない機体のために人の乗る艦を危険へ出せない。
代わりに、近くの観測灯へ短い問い合わせを送った。返答は数時間遅れて届く。白石は通信欄を開いたまま、次の監視へ移った。
やがて観測灯から届いたのは、偵察機の識別符号ではなく、冷たい破片の反射だった。何が壊したのかは分からない。篠宮は捜索を打ち切る代わりに、通行警報を一段引き上げた。
観測灯からの情報には、破片が回転しているらしいという注記があった。白石は偵察機の素材と照らし合わせたが、同じ金属は多数の旧型機に使われている。回収すれば確かめられるかもしれないが、そのために退避艇の監視を外すわけにはいかなかった。篠宮は損失の理由を曖昧にせず、『機体応答なし、原因未確定』と伝えさせた。艦橋の隅には、偵察機を整備した班の名前が記録されている。彼らにも調査結果を渡す必要があった。帰還できた艇と違って、失った機体の点検はもうできない。
艦内の格納庫には偵察機用の小さな工具箱が残っていた。白石は整備班へ問い合わせ、次の機体に使えるものを選んでもらった。失った一機のことを忘れないまま、明日また監視へ出るための準備が続いた。
白石が艦の日誌へ機体番号を書く。そこには搭乗者の名前はない。それでも一隻の船を失ったことには変わらなかった。画面の端で、遠い赤い点だけがゆっくり強まっていた。




