七隻目の署名
冷域九で七隻目の退避艇が、修理後の長時間試験を終えた。柴野誠は温度計の記録を読み、通常の負荷なら安定していると確認した。高負荷時の上昇は残ったままだった。
操縦士は運行許可書を差し出した。津久井怜は数値を確認し、短い距離であれば運べるかと尋ねた。柴野は安全を保証できる範囲だけを答えた。
冷域九から霧生四までの直行は難しい。途中で燃料と冷却を補える中継点が必要だった。古い航路図には閉鎖された補給門がある。そこが今も使えるかは分からない。
「飛べるという言葉だけを先に出さないでください」
柴野は津久井へ頼んだ。修理を待っていた人々が、全員乗れると思ってしまう。津久井は同意し、試験結果と運行可能範囲を一枚の紙へまとめた。
試験艇の外には、いつ出るとも決まらない荷物が積み上がっていた。七隻目の操縦士は自分の手で積載量を計算し、予備の酸素を増やすには乗員を減らさねばならないと気づいた。柴野は冷却管の交換時に見つけた小さな歪みを説明した。『たぶん大丈夫』という言葉を待っていた操縦士は、やがて計算表を畳んだ。修理班は故障前より多くのことを機体について知ったが、それは危険がなくなったという意味ではない。津久井は試験を続ける人手を確保した。
操縦士は冷却管に触れ、ほんの少し残る温かさを確かめた。柴野は手を離すよう促した。数値で測れない変化を指先だけに頼るわけにはいかない。二人は新しい試験日程を決めた。
操縦士は署名する前に、緊急停止の手順を読み直した。七隻目はようやく機体になった。それでも、帰る船になれるかは別の問題として残った。




