空白の農地
霧生四の農業区画では、避難者向けの野菜を育てる畑を広げようとしていた。水と光の管理が難しく、畑を増やすほど他の設備へ回す電力が減る。
川瀬弥生は農業担当者に呼ばれ、用水の計算を聞いた。植え付けを急げば収穫までの時間は短くなるが、初期の水が足りない。農業担当者は土壌の再生に時間をかけたいと話した。
「今、食べる人もいるんです」
弥生は港の配給記録を示した。担当者は頷き、短期間で育つ葉物だけを少し増やす案に変えた。遠い星系から穀物が届かなくなった時に備え、長く育つ作物の区画は残した。
避難者の中にはかつて農場で働いていた人がいた。作業を募集すると、同じ品種でも故郷と霧生四では育て方が違うと教えてくれた。
農地を見学に来た避難者の女性は、冷域九では地下で菌類を育てていたと話した。陽の光を必要としない作物があれば、霧生四の電力を少し節約できるかもしれない。農業担当者はすぐ採用せず、現地の菌が霧生四の設備へ持ち込めるか調べることにした。女性は植え付けより先に、冷域九で使っていた栽培記録を紙へ書き始めた。誰かが失った技術を、ここで再び使えるかもしれない。弥生はそのための机と水を用意した。
採用しなかった苗も捨てず、試験区画へ少量を残した。環境に合うかどうかは一度の収穫では分からない。農業担当者は水の使用量を毎日記録し、来月の配給計算にも使えるようにした。
苗の葉には水滴が残っていた。
小さな苗が並ぶ床を見ながら、弥生は新しい受入れ人数を考えた。船を迎える港は、降りた人が明日も食べられる場所でなくてはならなかった。




