病院船の席替え
灯標七の病院船では、隔離室を一つ増やすために食堂を移すことになった。看護長は患者の動線を優先したかったが、長期滞在の避難者には食堂が数少ない集まれる場所だった。
「食べる場所だけは残してください」
若い看護師が言った。医師は病床を減らすことを拒んだ。両者が図面の前で黙ったとき、調理係が小さな提案をした。配膳の時間を区切れば、同じ区画を交互に使えるという。
壁を動かす工事はすぐには終わらない。使える衝立を集め、病室から離れた通路の幅を測った。患者が急変した時に担架が通れるかも確かめた。
窓際の机はそのまま残された。そこへ毎夕、家族からの短い伝言が届く。通信不能の星系に宛てた手紙は多いが、受け取ったと返事が来るものは少ない。
食堂を動かす準備では、車椅子で移動する患者の意見も聞いた。仮の通路には小さな段差があり、衝立で隠れて見えなくなるという。整備班が板を取り付けると、今度は床が滑りやすくなった。看護長は予定の開放時刻を遅らせ、滑り止めの試験をした。患者の一人は自分が実験台になると笑ったが、看護師は無理をさせず、空の椅子で確かめた。夕食の汁が配られる頃、新しい場所には少しずつ会話が戻った。病室の扉を閉じた人にも、食堂の湯気が届いていた。
看護長は患者へ、食事の場所が変わることを一人ずつ説明した。混乱したまま運ぶと、誰かが戻る先を見失うかもしれない。通路の角には大きな矢印を付け、夜勤者にも場所を覚えてもらった。
看護長は食堂を守れたことに安堵しながら、新しい当直表を貼った。明日も治療は続く。人の声がする場所を残すことも、医療を続けるために必要だった。




