足りない発着許可
冷域九の津久井怜は、第三便の乗客を仮に割り振っていた。七隻目の試験が成功するかどうかで、人数は大きく変わる。現地の医療担当は酸素使用量の多い患者を優先したかった。
「操縦できる者を残すべきです」
副官が言った。津久井も分かっている。全員が出るわけにはいかない間、地下を維持する人手が必要だ。しかし家族を離すなら理由を説明する責任がある。
乗客一覧は何度も書き直された。名前が消されるたび職員は不満を受け、説明の声が疲れていく。津久井は窓口を一人に任せず、休憩の交代を組んだ。
柴野誠が試験結果を持ってきた。修理艇の冷却管は通常運転で規定値に入ったが、高負荷で温度が急上昇する。遠距離航行にはまだ使えない。
医療担当は、帰還まで薬を切らせないよう患者一人ずつの残量を調べた。必要な薬は揃っても、船に乗せるための電源が足りない人がいた。津久井は無人補給器の電池を医療用へ転用できるか確認させたが、接続規格が違う。使える物があるのに使えないもどかしさが残った。地下の掲示板には仮の乗船予定を置かず、代わりに整備の進捗と次の説明会の時間を張り出した。決まっていない席を争わせるより、確認できる事実を渡すことを選んだ。
説明を終えて戻った津久井は、未記入の運行許可書を机の引き出しへしまった。署名の欄は空白のままだ。許可できる時が来たなら、皆の前でその理由を話すつもりだった。
津久井は『発進準備完了』の印を押さなかった。乗船名簿にも確定の札を付けない。出港を待つ人たちは失望するだろう。それでも、戻れる保証のない船に定員まで乗せるわけにはいかなかった。




