行き先のない報告
共同防衛評議会に、外縁の小星系『羽白』から最後の通信が届いた。書記官の榊原千景は受信時刻を確認した。通信は数週間前に送られたもので、現在の状況を表すものではない。
画面には破損した港の写真と、退避船の離陸許可を求める文が残っていた。返信先の中継局はすでに応答しない。
「無事に逃げたと考えられますか」
議員の問いに、千景は確認できないと答えた。許可の有無と実際の出港は別だ。港が破損していても他の発着場が使えた可能性はある。
羽白は冷域九よりも遠い。支援艦を送れる航路は失われ、共同防衛の一部にも星系名を知らない者がいた。千景は避難船の識別符号だけを、灯標七と霧生四の入港記録へ回した。
夕刻、灯標七から一隻分の照会回答が来た。羽白の貨物船に似た符号が、以前の記録にあるという。ただし数字が二桁違う。千景は同一船と断定しなかった。
千景は貨物船の発着記録をもう一度調べた。羽白の発信時刻から計算すると、最も近い中継港へ逃れたとしても入港報告が届くまで時間がかかる。ある議員は広報文に『住民の避難を確認中』と入れたがった。千景は『照会中』だけに直してもらった。待つ家族がその一文を読み、生存を確信してしまうことが怖かった。羽白で採れた薄青い穀物の出荷記録だけは港に残っていた。人がいた証しを、彼女は整理票から削除しなかった。
通信の送り手は、助けが届くと信じていたのかもしれない。千景には想像しかできない。だから彼女は、届いた日と送られた日を両方残した。遅れて来た知らせにも、その人たちの時刻があった。
議事録の地図で羽白は小さな点にすぎない。けれど失われたと決めてよい証拠もない。千景は星系名の横に『通信不能・照会継続』と書いた。




