閉じない帰路
霧生四の航路室で、浅海朔は冷域九行きの第三便候補を並べていた。七隻目の修理は終わっていない。星渡の改装貨物船も試験前だ。それでも現地には人が残っている。
「出すと決めてから足りないと分かるのが怖い」
浦上柊が言う。朔は足りないものを隠さず書き出した。燃料、冷却予備材、受け入れ寝台、交代乗員。四つの欄には、どれにも未定の印がついた。
共同防衛評議会から届いた支援計画は、護衛を一隻に限定する内容だった。芦月には出力制限がある。浦上はその条件では速度をそろえにくいと伝え、出航の可否を再計算することにした。
夜、霧生四の港は帰港した艇の点検で明るかった。子どもたちの送迎車が行き交う横で、整備班は客室に新しい手すりを取り付けている。
朔の画面には、冷域九からの短い通信が届いた。『地下換気維持。残留者の移動準備継続』。期限の数字は書かれていない。その省略が気になったが、朔は勝手な期限を付けなかった。
輸送係から届いた別案は、船を分けて少人数ずつ運ぶものだった。朔は各便の燃料効率と、航路を何度も通る危険を計算した。乗れる人数だけ見れば良い案だが、繰り返すほど護衛の負担が増す。浦上はその判断を冷域九にも伝えるよう頼んだ。現地にいる人々は数だけの報告を受け取っても、なぜ迎えが来ないのか分からない。朔は計算表の最後に、まだ検証していない旧航路の条件を書き添えた。確かでない希望を、確定した便として知らせないためだった。
冷域九への通信が中継所を越えたことを、朔は小さな受信符号で確かめた。現地で読まれたかどうかはまだ分からない。船長と航路士はその符号を見届け、次の作業へ戻った。
彼は第三便の線を消さず、線の脇に細い注意書きを増やした。行ける道と行きたい道は違う。その二本が重なる場所を、彼らはまだ探していた。




