交代の時間
冷域九の地下では、夜勤と昼勤の境が曖昧になっていた。窓のない施設で、職員たちは通信の到着時刻を基準に動くようになっている。津久井怜は、連続勤務の長い人から強制的に休ませることにした。
「今、休んでいる場合じゃありません」
換気担当者が言う。津久井は彼の手元の記録を指した。二時間前に調整した弁が、まだ未調整と記されている。このままでは別の人が操作するかもしれない。
交代要員には避難待機者の中から設備経験者を募った。資格証がなくても、古い農業施設で配管を扱っていた人がいた。柴野誠は機器の違いを説明し、操作できる範囲を限定して手伝ってもらった。
食堂では、暖め直した粥が配られた。食べ終えた職員が仮眠室へ向かうたび、掲示板の当番表が少しずつ書き換えられる。
若い整備員が目を覚ますと、保守記録は同じ場所に置いてあった。交代者が何を触ったか、時刻付きで残している。作業は遅くなったように見えたが、確認のやり直しが減り始めた。
資格の確認が難しい臨時作業者へは、弁の開閉方向を色付きの札で示した。それでも一人で触れることは許さず、必ず当直員と組ませた。初めて交代に入った年配の女性は、農場で使っていた装置と似た音がすると教えてくれた。柴野が耳を澄ませると、循環ポンプが周期的に震えていた。故障ではないが、固定台が緩み始めている。すぐに直せる小さな不具合だった。翌朝の引継ぎ書には、彼女の名前とその発見が記された。
休養を命じられた職員は最初、眠らずに配管図を眺めていた。交代者が問題なく働いていると聞き、ようやく図面を閉じた。それでも数時間だけ、別の誰かへ任せられた。
津久井は出発を待つ人の列を見た。早く帰りたいのは誰も同じだ。だからこそ、眠れない者だけで船を動かすわけにはいかなかった。




