消えない赤点
護衛艦『芦月』の白石は、外縁で観測された赤色反応を一つの画面へ集めていた。二つの観測所が同じ時刻に見たはずの点は、座標が重ならない。敵が移動したのか、装置の読み違いなのか分からなかった。
「危険を大きく見すぎていませんか」
当直の兵士が尋ねる。篠宮航は答える代わりに、観測の誤差範囲を示させた。線を引けば、六隻の退避艇が通った経路の外側へ少しだけ届いている。
白石は二つの記録を消さず、別々に保存した。一本に平均すれば、赤い点の位置は真ん中へ移る。しかしそこに何かがいた証拠はない。
整備班からは冷却板の温度上昇が報告された。芦月は瑞帆六の部品で動いているが、速度を上げすぎれば再び故障する。篠宮は追跡を禁じ、観測のみを続けさせた。
監視時間が終わる頃、赤い反応は一度弱まり、別の位置に現れた。白石は発見ではなく『再検出』と日誌へ記す。その言葉の違いを若い兵士にも説明した。
艦内の医療担当は、当直兵の睡眠記録を篠宮へ送った。赤い点の検出以降、目を休めない者が増えている。見張りの人数を増やす余地はないため、白石は短い交代を取り入れた。画面を離れる時には座標だけでなく、何が不明かも引き継ぐ。一度、別の観測員が同じ点を見て『三つに分かれた』と報告した。測定方式を直すと、一つの反応の残像だった可能性が出た。白石は報告を消さず、解釈が変わった理由だけを記した。
白石は古い警報記録と今回の波形を並べ、共通する部分だけに印をつけた。異なる部分は不安を増やしたが、無理に同じものとして扱わなかった。艦の当直は切り替わり、椅子が静かに一つ引かれた。
芦月の窓の向こうには、人が暮らす星の光が細く見える。白石はその位置も記録に残した。守るべき方角を失わないためだった。




