水を送る余白
霧生四の給水責任者、川瀬弥生は、冷域九へ返す酸素容器の輸送枠を確保した。空になった容器だけを送っても役に立たない。洗浄と充填の設備が現地に残っているか確認する必要があった。
「水は積めませんか」
作業員が聞く。弥生は港の貯水量を見た。第二便の受け入れで使用量が増えている。医療区画では洗浄水も欠かせない。
彼女は新しい水を送る代わりに、廃水再生装置の交換膜を積む案を出した。冷域九からは、再生器の圧力が不安定だという回答が届いた。膜だけを送っても直らない可能性がある。
弥生は瑞帆六の技師へ連絡し、圧力を下げて運転できる手順を聞いた。機器の形式が古く、技師は古い説明書を探してくれた。三人がそれぞれ違う資料を持ち寄り、ようやく安全な運転範囲を示せた。
輸送箱には交換膜と印刷した手順書、壊れやすい圧力計を入れた。重量は当初の希望より軽い。
「水じゃなくていいんですか」
印刷した手順書には、簡単な図を大きく入れた。冷域九の電力が不安定なら、細かな文字を端末で拡大する作業さえ難しいかもしれない。弥生は箱の外にも手順書を一枚貼り、開封しなくても内容が分かるようにした。荷積み担当は重量を一度測り直した。数百グラムの違いでも、ほかの急ぎの物資を積めなくなることがある。地上では給水車がゆっくり並び、避難者の列は途切れなかった。弥生は港の水の配分表もその日の使用量に合わせて直した。
職員が箱に貼る宛先札を二枚用意した。一枚は輸送用、もう一枚は途中で剥がれた時のため箱の内側へ入れる。弥生は封印を確かめ、受領側が内容を見落とさないよう品名も大きく書いた。
弥生は、これが使えれば現地の水を何度も使えると答えた。すべてを送る余裕はない。それでも、送った物が届いたあと働き続ける方法なら考えられる。




